よくある質問

冬虫夏草（とうちゅうかそう）は中国で中薬と呼ばれる生薬の一つです。冬虫夏草菌がオオコオモリ蛾の幼虫に寄生し、冬は幼虫と共に「冬虫」として成長。その後、春から夏にかけてキノコが育ち「夏草」となります。この時、地上に現れた細長い部分を子座（子実体）、地中の幼虫部分を幼虫体（菌糸体）とし、これらの複合体を「冬虫夏草」と呼んでいます。近年、中国国内の需要の高まり、天然資源の減少もあり、高値で取引されています。

冬虫夏草は別名で「中華虫草」「夏草冬虫」「冬虫草」と呼ばれています。チベットの生薬名では「雅扎滚布」と記載されています。また、冬虫夏草は略称として「虫草」とも呼ばれます。冬虫夏草は中草の一種ですが、中草が必ずしも冬虫夏草という訳ではありません。尚、学名としては「Ophiocordyceps sinensis」ですが、一方で「Cordyceps sinensis」という以前からの表記も使われています。

中国薬典では冬虫夏草菌がオオコウモリ蛾の幼虫に寄生したものを、唯一冬虫夏草として認めています。一方、日本では虫草菌類を総称して冬虫夏草と呼び、その種類は350種類以上が確認されています。これら「日本冬虫夏草」は、現在でも大学や医療機関で有効利用に関する研究が進められています。尚、日本国内でサプリメントとして流通している冬虫夏草の多くはサナギタケ（Cordyceps militaris）を培養したもので、本来の冬虫夏草とは分類的に種が異なる点に注意が必要です。

冬虫夏草はオオコウモリ蛾の幼虫に冬虫夏草菌が寄生し、子座（子実体）を形成したものです。寄生するオオコウモリ蛾属（Hepialus）昆虫は、中国で50種類以上が既に報告されています。オオコウモリ蛾の成長は標高は3,600～4,800mで、牧草地様土壌が最適といわれています。オオコウモリ蛾の幼虫は雑食性の昆虫で、土壌中にトンネルを作り、柔らかい根を食料にして生活しています。

冬虫夏草はチベット、青海省、四川省、甘粛省、雲南省などのチベット高原、ヒマラヤ山脈、横断山脈、祁連山などに分布します。この他、ネパールやブータンにおいても少量ながら分布しています。チベット高原は冬虫夏草の生産量が特に多く、青海省は総生産量70％以上を占めています。冬虫夏草とオオコウモリ蛾属昆虫の地理的分布は一致し、チベット高原東部の横断山脈の標高3,000～5,000m付近が分布の中心といえます。

青海省玉樹産冬虫夏草の成分研究では、炭水化物28.9％、たんぱく質25％、脂肪8.4％で、脂肪はその82.2％が不飽和脂肪酸でした。特徴的な成分として虫草酸（cordycepic acid）と呼ばれるD-マンニトールを約7％含有します。この他、ビタミンB12、エルゴステロール、ヘキサトール、アルカロイド等を含みます。

また、灰分が4.1％と比較的豊富なミネラルを含み、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、セレン、マンガン、鉄、銅、亜鉛、プラチナ、カドミウム、ルビジウム、臭素等の含有が報告されています。

冬虫夏草は中国においては医薬品として薬典に記載されています。冬虫夏草の働きとして、免疫機能の向上、呼吸器系疾患の改善、抗酸欠、抗疲労、運動機能の向上、滋養強壮作用、抗腫瘍作用、鎮静作用など様々な薬理作用が明らかになっています。この他、細胞のATP産生を増加させる作用、抗菌、抗ウィルスなどの働きも報告されています。

毎年5～6月の積雪が溶け始めた頃が冬虫夏草の採集季節です。この時期に3cm未満の子座が地表に多く見られるようになります。特に、この時期は雑草の成長速度が早いため、採集が遅くなると、冬虫夏草をみつけるのが難しくなります。また、子座も枯れ、土中の虫体も栄養が枯渇し、薬用に適さなくなります。

冬虫夏草は青海省の玉樹地区と果洛州一帯、チベットの那曲地区と林芝地区が主要な産地といえます。この他、四川省の阿坝 州壤塘、甘孜州理塘、巴塘、徳格、雲南省徳欽、甘粛省甘南州等においても採集されます。

冬虫夏草は標高3,000～5,000mの高山地帯や草原に成長するなど、自然環境に対して極めて要求が高いのが特徴です。また、その生育は、標高、気候、気温、湿度、日照、土壌、植生と密接な関係があり、中でも、降雨量と気温が最も大きな影響を及ぼすといわれています。

冬虫夏草の生産量は1980年代までは十分な量といえました。資料によると冬虫夏草の２大生産地であるチベットと青海省で毎年40ｔ 以上の生産量があったとされます。しかし、近年の生態環境の変化や人による過度な採集もあり、冬虫夏草の資源量は大幅に減少し、その生産量は1950年代の3％程度ともいわれています。

統計によると1950年代、中国全体における冬虫夏草の年間生産量は100t 以上に達していました。60年代初頭には50～80t、90年代にはわずか5～15t まで減少しています。かつて冬虫夏草は外貨を獲得する商品として、その多くを輸出していました。しかし、1980年代、市場開放と販売経路の多岐化から、価格は高騰傾向となります。こうした価格高騰の刺激を受け、乱獲が進み、資源は更に縮小したといわれています。現在の生産量は1950年代の3％程度といわれています。

冬虫夏草の流通価格は人参や鹿茸はもちろん、金相場よりも高い価格で取引されています。原因の一つはもともとの薬効があります。そして、もう一つの原因は、その生産量が減少し、非常に希少となっている点です。現在の生産量は1950年代のわずか3％程度といわれています。この他、市場において冬虫夏草の買いだめを行う一部の業者の存在、或いは、仲介が多く介在する流通構造も価格を押し上げる要因といわれています。

冬虫夏草の平均価格は、1995年～2011年の価格推移において2つの段階に分けられます。第一段階は1995年～2005年で、冬虫夏草の平均価格は1kg当たり2万元から4万元に上昇し、10年間で約2倍になっています。第二段階は2006年～2008年で、冬虫夏草の平均価格が4万元から12万元まで上昇し、わずか2年間で約3倍上昇したことになります。2009年に冬虫夏草の消費が落ち着き、2011年は緩やかに上昇傾向に移行しています。尚、価格は小売店の価格ではなく、中薬市場でのバルク販売価格。