冬虫夏草(とうちゅうかそう)とは、中国で中薬と呼ばれる生薬の一つで、伝統的に薬用と食用、どちらも使われてきました。麦角菌科 冬虫夏草属 冬虫夏草菌Cordyceps sinensis( BerK.)Sacc. がオオコオモリ蛾の幼虫に寄生した子座(子実体)及び幼虫体の複合体を指します。

中国の国内需要の増加、さらに資源量の減少もあり、近年特に高値で取引されています。とりわけ資源量の減少は顕著で、生産量は1950年代の3%程度ともいわれています。

別 名 中華虫草、夏草冬虫、冬虫草。略称として虫草
学 名 Ophiocordyceps sinensis
和 名シネンシストウチュウカソウ
菌界
麦角菌科
分布区域 チベット、青海省
採集時期 夏至前後で、積雪がまだ溶けきらない時期
食薬区分日本では食品。中国では中薬と呼ばれる医薬品。

名称由来

冬虫夏草はチベット語で“雅扎滚布”( Yǎ zhā gǔn bu( )と呼び、冬は虫、夏は草という意味です。冬の間は真菌がオオコウモリ蛾の幼虫の体内に寄生し、夏になると発育、成長することから、この名称となりました。

真正の冬虫夏草は全て野生で、標高3,000~5,000mの高山地帯や草原に成長するなど、自然環境に対して極めて要求が高いのが特徴です。

分布と生態

冬虫夏草 漢方

冬虫夏草菌がオオコウモリ蛾の幼虫に寄生したOphiocordyceps sinensisだけを、中国では冬虫夏草と認めています。

チベット、青海省、甘粛省、四川省、貴州省、雲南省等に分布します。特に標高3,000~5,000mの高山地帯や雪山、草原に生育するのが特徴です。

また、その生育は、標高、気候、気温、湿度、日照、土壌、植生と密接な関係があり、中でも、降雨量と気温が最も大きな影響を及ぼすといわれています。

成長習性

冬虫夏草 菌糸体 子実体
冬虫夏草(Ophiocordyceps sinensis)

先ず、毎年8月下旬頃から、宿主であるオオコウモリ蛾の幼虫が、冬虫夏草菌の子嚢胞子に感染します。感染後、幼虫は行動が徐々に緩やかになります。気温が2~9℃になる10月頃、地表付近に現れ、虫としての命を終えます。その後、冬虫夏草菌は虫体の栄養を吸収して成長し、虫体内が菌糸で満たされ子座を形成するまで繁殖します。地表温度が極めて低くなる11月から翌年2月にかけて成長はほぼ停止するか、或いは非常に緩やかになります。

次に、気温が4~10℃に上昇する5月頃、虫体の体表に菌糸体が成長します。さらに、その菌糸体は土壌に粘着して一層の膜を形成します。その後、急速に20~50mmの棒状の子座を成長させ、地表に現れます。

6~7月下旬になると、子座の頭部が徐々に膨らみ、適切な温度、湿度、日照のもと成熟し、胞子が放出されます。この時、地下の虫体は腐敗しており、子座は中空状です。そして、拡散した胞子は風雨の力を借り、再びオオコウモリ蛾の幼虫に感染へと向かいます。

自然環境下で冬虫夏草は世代を完了するのに約3年の時間が必要だといわれています。

採集

毎年5~6月の積雪が溶け始めた頃が冬虫夏草の採集季節です。この時期に3cm未満の子座が地表に多く見られるようになります。特に、この時期は雑草の成長速度が早いため、採集が遅くなると、冬虫夏草をみつけるのが難しくなります。また、子座も枯れ、土中の虫体も栄養が枯渇し、薬用に適さなくなります。

“頭草”と“二草”

虫体頭部の子座は、一日で虫体と同じくらいの長さまで成長します。この時の冬虫夏草を“頭草”と呼び、とりわけ品質が良いとされています。さらに、子座は二日目には虫体の約2倍の長さまで成長します。この時の冬虫夏草を“二草”と呼び、次に品質が良いとされています。

成分

青海省玉樹産冬虫夏草の成分研究では、炭水化物28.9%、たんぱく質25%、脂肪8.4%で、脂肪はその82.2%が不飽和脂肪酸でした。
特徴的な成分として虫草酸(cordycepic acid)と呼ばれるD-マンニトールを約7%含有します。この他、ビタミンB12、エルゴステロール、ヘキサトール、アルカロイド等を含みます。

また、灰分が4.1%と比較的豊富なミネラルを含み、カリウム、マグネシウム、カルシウム、クロム、ニッケル、セレン、マンガン、鉄、銅、亜鉛、プラチナ、カドミウム、ルビジウム、臭素等の含有が報告されています。

冬虫夏草に含有しない“コルジセピン”

冬虫夏草を扱う商品や論文では、コルジセピン(cordycepin)という成分が頻繁に登場します。しかし、天然の冬虫夏草にはコルジセピンは一切含有しません。近年の研究で、コルジセピンは、冬虫夏草とは種が異なるサナギタケ(Cordyceps militaris)の生合成機構により産生されることが解明されました。

弊社では、薄層クロマトグラフィー(TLC)による確認試験を行い、天然の冬虫夏草にコルジセピンが検出されない事を確認しています。

利用

極めて古くから王侯や高僧の不老長寿の食物として重用されてきました。8世紀初頭の古典『月王薬珍』に、冬虫夏草の効能が記載されています。さらに、東晋(317年~420年)時期に書かれた『拾遺記』には、冬虫夏草の特徴を持った“冰蛆”という名称が記載されています。

冬虫夏草は、伝統的に薬用と食用、どちらにも使われてきました。特に、人参や鹿茸と並んで三大補品と呼ばれ、その薬用価値と滋養作用は三大補品の中で最も優れているといわれています。

馬軍団の活躍

1993年の世界陸上大会において、馬軍団といわれる中国の選手団が好成績を収めました。そして、その活躍の裏に冬虫夏草の働きがあったと報じられ、その名前が一躍脚光を浴びました。

ドイツのシュトゥットガルトで開催されたこの大会では、3,000mで金銀銅を独占。10,000mは金銀を獲得。中でも10,000mで優勝した王軍霞選手は、それまでの世界記録を42秒も縮めるものでした。その後、この記録は2016年に至るまで破られることはありませんでした。

大会前、チームを率いた馬俊仁コーチは、青海省などで高地トレーニングを実施。1日40km以上を走る強化練習をしたと伝えられています。この厳しい高地トレーニング期間中、冬虫夏草や朝鮮人参、紅景天などを飲みながら疲労回復に努めたとされています。

研究

スポーツ分野での研究成果

2013年、台北大学・運動科学研究所(郭家驊教授)より、冬虫夏草と紅景天を摂取することで、高地トレーニングの効果を著しく向上させるという研究論文が発表されました。ここでは自律神経の保護、特に、副交感神経の低下を防ぐ働きを取り上げています。末梢神経活動を高いレベルで維持し、結果として、高い運動パフォーマンスをもたらしたとしています。

郭家驊 ほか. 紅景天(Rhodiolacrenulata)および冬虫夏草(Cordycepssinensis)ベースのサプリメントは、短期間の高地トレーニング後の有酸素運動パフォーマンスを向上させる。 High Alt Med Biol. 2014 Sep;15(3):371-9. DOI: 10.1089 / ham.2013.1114

医療分野における研究成果

2012年、土佐清水病院(丹羽靭負医師)より、『冬虫夏草を含む自然療法が肝細胞がん患者の生存を延長するエビデンス』という論文が報告されました。

丹羽靭負 ほか. 冬虫夏草を含む自然療法が肝細胞癌患者の生存を延長するというエビデンス。 Integrative Cancer Therapies. 2013 Jan;12(1):50-68. DOI: 10.1177/1534735412441704

生命力を高める冬虫夏草

エネルギー産生の増加

特に重要な冬虫夏草の働きは、ミトコンドリアのエネルギー産生を高める点です。これはミトコンドリアの活性が高まり、その結果、エネルギー産生が増えたといえます。細胞のがん化とミトコンドリアは密接な関係があり、その活性を高めるのは極めて重要といえます。

ミトコンドリア活性とエネルギー産生が高まることは、人体にとって様々なメリットがあります。例えば、脳神経細胞など生きる上で極めて重要な細胞が元気になること。或いは、細胞内の酵素が活発になり、物質代謝が促進すること。さらには、アポトーシス機能の正常化、低体温改善、疲労軽減、運動パフォーマンスの向上などです。

自律神経の保護と免疫維持

冬虫夏草は激しい運動などのストレス耐性を高め、持久力を上げる点も特長です。例えば、中国の馬軍団が冬虫夏草を飲んで高地トレーニングを行ったのも納得できます。こうした冬虫夏草の働きは、自律神経、特に副交感神経を保護した結果といわれています。

免疫の中心である白血球は、常に自律神経による支配を受けています。顆粒球:リンパ球:単球の白血球比率は、自律神経によって左右されます。したがって、冬虫夏草の免疫を維持する働きは、副交感神経の保護によってもたらされたといえます。

異名

陰陽同補の“中薬の王”

伝統中医学では、人体の陰陽バランスが中医理論の基礎になっています。あらゆる疾患が陰陽失調から生まれたと考えます。同様に、中薬の効能に対しても、その働きを陰陽の属性に分けました。例えば、燕窝(燕の巣)は滋陰、人参と鹿茸は補陽といったようにです。しかし、唯一、冬虫夏草のみ例外です。最初は虫としての陽と、成長して草としての陰と、両方の特長を兼ね備えています。陰陽を同時に補うという働きから“中薬の王”と呼ばれています。

“黄金の草” “柔らかい黄金”

冬虫夏草はその薬用価値も高く、効能も良く、国内と国外の需要も高まっています。一方で、天然の資源量は希少であることから、価格は高騰しています。外形上の見た目から、冬虫夏草は黄金色、淡黄色、黄褐色を呈し、加えて価格が非常に高いことから、中国では“黄金の草”或いは“柔らかい黄金”などとも呼ばれています。

歴史

冬虫夏草 月王薬診
『月王薬診』(8世紀初頭)

冬虫夏草は古くから薬として使われた歴史があります。710年、唐の中宗皇帝の時、金城公主がチベットの吐蕃王朝に嫁ぎました。多くの医療関係者や書籍を持ち込み、「月王薬診」をチベット語に翻訳したと言われています。「月王薬診」では、肺疾患を治療するという冬虫夏草の効能が記載されています。また、780年『藏本草』にも“冬虫夏草は肺を潤し、腎を補う”の記載があります。

さらに古くは、東晋(317年~420年)時期に書かれた『拾遺記』に、冬虫夏草の特徴を持った“冰蛆”という名称が記載されています。

本草綱目拾遺
様々な薬物書に登場する冬虫夏草

チベットの薬物書『甘露宝庫』(宿喀妮(しょかに)多吉(とじ)、1400年頃)に、冬虫夏草の生態や生息地、採集、味、薬効、効能など記載されています。

中国の薬物書に最初に登場したのは1615年に出された『寿世保元』とも言われています。「味が甘く、体を温める働きがあり、疲れ、喀血、勃起機能障害、精液の漏れを治す」などの記載があります。

『本草従新』(呉儀洛、1757年)が最初の記載であるという説もあります。その後、『本草綱目拾遺』(趙学敏、1765年)に紹介され、服用方法や処方への応用など詳しく記載されています。

人の手で採集する冬虫夏草

冬虫夏草 チベット高原産 天然 cordyceps sinensis
青海省 チベット高原 

Qinghai Tibetan Plateau

冬虫夏草は中国のチベット、青海省等の標高3,400~4,600mの高原地帯に生育します。

冬虫夏草菌がオオコオモリ蛾の幼虫に寄生した子実体と幼虫体の複合体を指します。

※チベット高原 青海省果洛藏族自治州の採集現場。

冬虫夏草 チベット高原産 天然 cordyceps sinensis
草叢に生える“針”のような冬虫夏草

まず胞子がオオコウモリ蛾が幼虫に寄生し、冬の間は幼虫と共に「冬虫」として成長。その後、春から夏にかけてキノコが育ち「夏草」となります。

草叢にひっそりと顔を出す“冬虫夏草”を探すのは特に大変な苦労。

冬虫夏草とは 天然 cordyceps sinensis
採れたての新鮮な冬虫夏草

採集したての新鮮なものは、薄い衣を一枚被っていて、この衣をむくと、流通している生薬のものが現れます。

採集時期は限られており、5月~6月頃の45日間。例えば、雨や雪で天候が崩れると採集期間はさらに短くなります。

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